変化するフランス語の r
2024年のパリオリンピックの開会式では、セリーヌ・ディオンが “L’hymne à l’amour(愛の賛歌)” を熱唱して私達を感動させてくれました。
この歌を聞いた後に、エディット・ピアフが歌う原曲の「愛の賛歌」を聞いた方から、「フランス語の r って巻き舌なんですよね?」と聞かれたので、この記事を書こうと思いました。
エディット・ピアフの の歌う r は、現在のフランス語の r とは全く発音の仕方が違いますのでご注意を。
現代フランス語の r : 発音記号は [ʁ]
現代フランス語で発音される r の音は、発音記号では [ʁ] と記され、有声口蓋垂摩擦音(ゆうせい・こうがいすい・まさつおん)と呼ばれています (consonne fricative uvulaire voisée) 。ウィキペディアによると、軟口蓋の端あるいは口蓋垂と後舌を密着または接近させて気流を妨げながら喉を摩擦させることによって作られる子音と解説してあります。
[ʁ] の出し方
① 喉の奥に意識を向ける:この音は、喉の奥の方で作られます。発音する前に、喉の奥を少し緊張させるような感じにしてみましょう。
② 舌の後ろ部分を持ち上げる:舌の後ろの部分を上げて、口の奥(口蓋垂や軟口蓋)に近づけます。ただし、舌が完全にくっつかないようにしましょう。わずかに隙間を残すことで、空気が通り抜けられるようにします。舌の後ろの部分を上げやすくするために、私は舌の先を下の歯の裏側に軽くつけることをお勧めしています。
③ 息を出しながら、喉を振動させる:この音は「有声」なので、声帯が振動します。喉の奥から息を出しながら、軽く喉を振動させて音を出します。このとき、息が舌の後ろの部分と軟口蓋の間を通り抜けるときに、少しザラザラした感じの音がします。
【現代フランス語の r [ʁ] : 有声口蓋垂摩擦音】
20世紀初頭のフランス語の r : 発音記号は [ʀ]
20世紀初頭のフランス語の r は、発音記号では [R] でと記され、有声口蓋垂ふるえ音(ゆうせいこうがいすいふるえおん)と呼ばれます (consonne roulée uvulaire voisée)。ウィキペディアによると、後舌面を口蓋垂に近づけて呼気によってふるわせて出す音とのこと。
有声口蓋垂摩擦音 [ʁ] の音色はややふるえ音的になる傾向がありますが、口蓋垂ふるえ音との大きな違いは、[ʁ] は後舌面が平らかやや盛り上がって調音されるのに対し、[ʀ] は後舌面をへこませてできた縦方向の溝の中で口蓋垂が振動することです。
[R] の出し方
① 舌の位置を調整する: 舌の後ろの部分(後舌)を少し下げて、喉の奥に空間を作ります。これは、[ʁ]の音と違い、舌を少しへこませることがポイントです。口の奥の中央に縦方向の溝ができる感じです。
② 息を送りながら舌を緊張させる: 舌の後ろを少しへこませた状態で、息を送り込みます。このとき、舌をリラックスさせすぎず、少し緊張感を持たせると良いです。
③ 口蓋垂が振動する: 送り込んだ息が口蓋垂にあたることで、口蓋垂が振動します。この振動が音を作ります。
【20世紀初頭のフランス語の r [R] : 有声口蓋垂ふるえ音】
この r [R] のことを、私の音声学の教授はいつも ” Le r de Mireille Mathieu. ” と呼んでいました。確かに歌手のミレイユ・マチュウの r はとても独特なので、聞いてみてください。
エディット・ピアフの r も、この音です。
この発音は19世紀に流行し、20世紀初頭にも主にパリで発音されていたのですが、第二次世界大戦後に徐々に消えていき、今では有声口蓋垂摩擦音の r [ʁ] になりました。
ですから、今のフランス語の r はピアフのような巻き舌の r ではないので、ご注意を!
スペイン語の r : 発音記号は [r]
ちなみに、ミレイユ・マチュウやエディット・ピアフの巻き舌風の r は、スペイン語の巻き舌の r とはまた違います。
スペイン語の r は発音記号では [r] と記され、歯茎ふるえ音(しけい ふるえおん)と呼ばれます (consonne roulée alvéolaire voisée)。舌端を歯茎付近で振るわせた音です。
[r] の出し方
① 舌先の位置を準備する: 舌の先端部分(舌端)を上に持ち上げ、上の前歯のすぐ裏にある硬い部分(歯茎)に軽く当てます。この位置が基本です。
② 舌をリラックスさせる: 舌先を歯茎に軽く当てている状態で、舌をリラックスさせます。舌が完全に力を抜いた状態だと振動しやすくなります。
③ 息を出しながら舌を振動させる: この状態で息を強めに出します。息が舌の先端を歯茎に押し付けると同時に、舌が振動して「r」の音が出ます。舌が「トゥルル」と歯茎に連続して当たるような音になります。
④ 舌の振動を感じる: この振動がうまくいくと、舌先が歯茎に何度も連続して触れることで、トゥルルと転がるような音が出ます。最初は短い振動から始めて、徐々に長く続けられるように練習するといいでしょう。
【スペイン語の r [r] : 歯茎ふるえ音】
江戸っ子の口調を真似たり、ケンカ口調を真似る時にスペイン語の r [r] をよく使いますが、私はこの r がどうしても出せません。orthophoniste (発音矯正士)になる勉強をしているフランス人の知人曰く、「舌の先端部分(舌端)を上に持ち上げ、上の前歯のすぐ裏にある硬い部分(歯茎)に軽く当てた時に、指2本分が口の中に縦に入ればこの r を発音できる」のだそう。私は舌が短すぎるのか、指2本は入りません…。スペイン語の r をきれいに発音するのは、私にはもう無理なのでしょうか?
でもフランス語の [ʁ] はのどで出す摩擦音で舌の長さは関係ないですから、練習すればだんだんとできるようになります。どうぞご安心を!
このように、フランス語の r の発音は時代と共に変化してきたのです。
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