日本語にあってフランス語にない言葉
海外で暮らしていると「これって外国語でどう言うんだろう?」と思うことがよくあります。私はよく、海外で病院や美容院、お役所に行く前、また何かを探しにお店に行く前などに、言いたい単語や表現を調べ、頭の中で会話のシミュレーションをします。そしてその場に行ってから、シミュレーション通りにアウトプットするのです。毎日これを繰り返すことでボキャブラリーの量が増え、語学力がついてきます。ですから日本で暮らしている時でも、日常でふと思ったことを、学習している言葉で言おうとしてみてくださいね。
さて上で書いたように、日常的に「これはどういうのだろう?」と考えていると、その言語に「ない言葉」がでてきます。今日は「フランス語にない言葉」について書いてみたいと思います。
その言葉は「浅い」という形容詞です。日本語では、
川が浅い
浅い井戸
浅なべ
傷が浅い
眠りが浅い
経験が浅い
日が浅い
考えが浅い
というように、実にいろいろなところでこの「浅い」という形容詞を使います。
ところが、私がフランスにいた時に「浅い川、ってどういうの?」とフランス人に質問し、
「une rivière peu profonde(少し深い川)だ」と聞いた時には、とても驚きました。peu は「少し、少ない」という意味で、profondは「深い」という形容詞です。
つまり、「深い」の反対の「浅い」をずばり表現するフランス語の形容詞は、ないのです。
ちなみに英語では shallow という形容詞があります。
とはいうものの、フランス人に「浅い」という概念がないわけではありません。フランス語では次のように表現します。
川が浅い = La rivière est basse. (その川は水位が低い)
浅い井戸 = un puits peu profond (深さが少ない井戸)
浅なべ = une casserole basse (低いなべ)
傷が浅い =la blessure est légère (傷が軽い)、la blessure est peu profonde, superficielle (傷は少なく深い、傷は表面的だ)
眠りが浅い=le sommeil léger (軽い眠り)
経験が浅い=manque expérience (経験の欠如)
日が浅い = 彼女と知り合ってまだ日が浅い=Je ne la connais pas depuis longtemps. (私は彼女をずっと以前から知らない)
考えが浅い=être irréfléchi (思慮がない)
「浅い=高さがない」場合には、「低い (bas)」
「浅い=少ない」という場合には、「軽い (léger)」
「浅い=足りない」という場合には、「~が欠乏している(manque de~)」
「浅い=表面だけ」という場合には、「表面的 (superficiel)」
のように言うのです。
ちなみに、同じくラテン語が語源のスペイン語では「浅い」をどう表現するのかというと、やはり
poco profundo (少なく深い)
poco hondo (少なく深い)
de baho fondo (底が低い)
superficial (表面的だ)
というように、フランス語と同じでした。
このように見ると、人間の言葉は言語によって異なる領域に区切られていることがよく分かります(言語学ではこの単語の領域のことを「意味領域」といい、フランス語では champs sémantique と言います)。ある単語が「浅い=shallow」とずばり同じ意味領域になっている場合もありますが、「peu profond (少し深い)」と言ったり、「léger(軽い), bas(低い)」のように少しずれている場合もあります。
ですから外国語を学ぶ時には、言語間の意味領域のずれを発見することを楽しみながら、単語や表現を覚えてみてください。
ところで、この「川や海が深い= profond」の反対語である「浅い」という一語の形容詞(英語の shallow にあたるもの)がフランス語にはないことについて、娘に聞いてみたことがあります(彼女は母国語がフランス語で、カナダで暮らしています)。すると「私もそれ思ったことある。」という返事でした。彼女もやはり、フランス語と英語を話しているうちに shallow がフランス語では「少なく深い」としか言えないことが気になったそうです。
「だから、Martin(フランス人の男友達)と一緒に形容詞作ったの。”profond” の反対は ”peufond “よ。ハハハ…。」
こうして我が家では、新語の peufond (プ―フォン)が生まれたのでした。
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