フランス語の慣用表現 (expressions idiomatiques)

最終更新日:2021年10月6日

今日はフランス語の慣用表現(les expressions idiomatiques) をご紹介します。

フランス語には動物や野菜、果物を使った独特の慣用表現がたくさんあります。慣用表現はことわざ (proverbe) とは少し違って、習慣的に使われる決まった表現とでもいえるでしょう。全部はとても書ききれないので、私の独断と偏見で日常会話でよく使うものをご紹介します。

raconter des salades  ほらを吹く、でたらめを言う

直訳すると「サラダを語る」という感じになりますが、ここで言うサラダというのは「ユーモアやウソ、言い訳などを混ぜたもの」。ウソをつくためにいろいろなことを混ぜて話すということから、この表現が生まれました。

Arrête de me raconter des salades!  でらためを言うのはやめて!

ne pas chercher midi à quatorze heures
簡単なことをさらに難しく考えるな

直訳すると「正午を14時に探すな」という意味になりますが、「midi = 正午」というのは、時計の中でもっとも重要で分かりやすい場所にあります。そのように簡単な時刻を14時の場所に探すな、つまり簡単なことを難しく考えるな、という意味で使われます。

16世紀の頃は “ne pas chercher midi à 11 heures” と言われていたそうですが、17世紀になっていまの「14時」に表現が変わったそうです。

Ah, tu cherches toujours midi à quatorze heures !
ああ、君はいつも難しく考えるんだから!

en faire tout un fromage 誇張する、大げさにする

牛乳のようなシンプルなものからチーズのような洗練された食品をつくる、という意味からきているこの表現。小さなことでも大げさに言うことを言います。

Il en a fait tout un fromage ! 彼は大げさなんだから!

 

avoir une langue de vipère  毒舌である

“langue de vipère”とはマムシの舌のこと。舌は「言葉」の意味で、「マムシの舌を持つ」つまり毒舌であることを表します。

Tu devrais arrêter de faire ta langue de vipère, un jour ça va te retomber dessus.
ひどいことを言うのはやめたほうがいいよ、そのうち君が言われるよ。

 

avoir (quelque chose) sur le bout de la langue
口先まで出かかっているが思い出せない

「何かが舌先にある」という直訳からも想像できる表現です。

Mais attends, laisse-moi réfléchir, je l’ai au bout de la langue.
待って、ちょっと考えさせて。もう舌先まで出てきているんだから。

 

Prendre un coup de vieux 急に老けこむこと

“coup de vieux” 「老いの一撃」を受ける、というような感じでしょうか。誰かが急に老け込んだ時によく使う表現です。

Ça faisait deux ans que je ne l’avais pas vu, mais il a pris un coup de vieux! Je ne l’ai presque pas reconnu!
2年ぶりに彼に会ったんだけど、彼急に老け込んでたよ!もう少しで分からないところだった。

 

poser un lapin à quelqu’un
~との約束をすっぽかす、~に待ちぼうけをくわせる

直訳は「誰々にうさぎを置く」という意味ですが、もともと「うさぎ」には「支払いを拒否する」という意味があり、1880年には「若い女性の好意に応えない」という意味で使われていました。その後、何度か意味が変わり、1890年頃に学生達が現在の意味で使い始めたとのことです。

Tu sais que Sophie m’a posé un lapin? Je l’ai attendue deux heures à la gare.
ソフィーが僕との約束をすっぽかしたの知ってる?2時間も彼女を駅で待ったよ。

 

se prendre un râteau   拒絶される

直訳すると「熊手があたる、ぶつかる」という意味で、「庭に置いてあった熊手をふんで、柄の部分が思いっきり顔にあたる」というイメージから生まれました。現在この表現は、「気に入った人に言い寄ってその人に拒絶される」という意味で使われます。「自分で自分に熊手の柄があたる」ということなので、代名動詞 se prendre の形で使わています。

Arrête de pleurer! D’accord, tu t’es pris un râteau, mais bon, MOI AUSSI.
泣くのはやめろよ!分かるよ、君は拒否された。でもさ、僕もなんだ。

 

être à cheval sur quelque chose  ~に非常に厳格である

直訳すると「~の上に馬乗りになる」という意味ですが、馬の調教の様子から来ています。馬を調教する時には非常に厳しくしつけなければならないため、”être à cheval sur ~”という表現が生まれました。

L’anglais de Chloé était une perfection musicale. Son père était très à cheval sur la qualité d’un accent.
クロエの英語は音的に完璧だった。彼女の父親はアクセントの質に非常に厳格だった。

 

tiré par les cheveux   こじつけの、強引な

直訳は「髪の毛を引っ張られる」ですが、誰かが髪の毛を引っ張って無理やりどこかに連れていくようなイメージから「こじつけの、強引な」という表現が生まれました。

Ses explications sont tirées par les cheveux.
彼の説明は強引だ。

 

tomber dans les pommes    気絶する

直訳をすると「リンゴの中に落ちる」ですが、「気絶をする、気を失う」という意味で使われます。もともとは  “être dans les pommes cuites (煮リンゴの中にいる)”という表現をしており、「非常に疲れている状態」を表していましたが、そこから今の表現に変化しました。

Quand j’ai vu le sang, je suis tombé dans les pommes.
血を見た瞬間に私は気絶した。

 

presser quelqu’un comme un citron  ~からすっかり搾り取る

「~をレモンのように絞る」という意味からも想像できるように、「誰かをすっかり搾取する」という意味で使います。

Tu travailles encore? On te presse comme un citron!
まだ仕事してるの?彼らは君を搾取してる!

 

un froid de canard    肌を刺すような寒さ

秋から冬に行われる”canard(鴨)”の猟から来ている表現です。カモ猟の間は、獲物が近くにくるまで厳しい寒さの中をじっと待っていなければならないことから生まれました。

Il fait un froid de canard, aujourd’hui!  今日はなんてひどい寒さだ!

 

faire la grasse matinée   ゆっくりと朝寝坊する

非常によく使う表現です。gras (脂肪分の多い、肉厚の、ねっとりとした)という形容詞が「朝寝坊のだらだらと過ごす時間」や「ふかふかのベッド」を思わせます。日常会話では “faire la grasse mat. “ とも言います。

Tu as fait la grasse matinée.   朝寝坊したね。

 

avoir les dents longues  金銭欲が強い、野心家である

「歯が長い」という意味のこの表現。14世紀の頃は「おなかがすいた」という意味で使われていましたが、その後攻撃的な部分が強調され、「金銭欲が強い、野心家である」という意味になりました。

Il était connu pour avoir les dents longues. 彼は野心家で知られていた。

 

avoir un cœur d’artichaut   浮気(移り気)である

「アーティチョークの心をもつ」というのが直訳ですが、アーティチョークは外側のガクを一枚一枚向むき、中にある芯 (cœur) だけをたべますが、この芯 (cœur) と人間の心 (cœur) をかけて、誰かをすぐに好きになってしまう人のことを言います。

Vous avez souvent des coups de cœur ? Peut-être avez-vous un cœur d’artichaut?
あなたはよく一目ぼれするのですか?浮気性なのかもしれませんね?

 

avoir les yeux plus gros que le ventre  高望みをする

「おなかよりも大きい目をしている」という意味ですが、食べきれないほどの料理をお皿にとってしまう様子から、「高望みをする」という意味で使われます。

Pour moi, c’est excessif – nous avons les yeux plus gros que le ventre sur ce point.
それは極端だと思う。我々はその点では高望みをしすぎている。

 

mi-figue, mi-raisin   どっちつかずの

「半分イチジク、半分ブドウ」という意味ですが、16世紀ごろ、イチジクは価値のない果物としてネガティブな意味で使われることが多く、一方で甘くておいしいブドウは良い意味で使われれていました。このことから、「良い部分と悪い部分を両方もち、どっちつかずの」という意味で使われます。

Ce temps est tellement mi-figue mi-raisin que l’on ne sait vraiment plus comment s’habiller.
この天気は全然はっきりとしないから、何を着たらいいのか全く分からない。

 

donner sa langue au chat  分からないと認める、降参する

家族や友達とクイズをする時に非常によく使う表現です。「ネコに舌を与える」という意味ですが、何か分からないことに対して「分からない」と認める時に使います。もともとは “jeter sa langue au chien”(犬に舌を投げる)という表現をしていました。これは「犬に残りものをやる」というところから、「質問に対する答えを探す気をなくす」という意味で使われていました。それが20世紀には “donner sa langue au chat.” に少しずつ変わっていったとのことです。

Tu ne sais pas? Tu donnes ta langue au chat?
分からない?降参する?

 

être dans la lune   ぼんやりしている、うわの空である

「月」は18世紀の作家ミラボーが作品に用いた時から、「夢、うわの空」という意味に強く結びついていました。似たような表現に “avoir la tête dans les étoiles” (頭が星の中にある=夢想にふける、夢想家である)という言い方もあります。

T’es dans la lune, Arthur.  Tu penses à quoi ?
アルチュール、ぼーっとしてるよ。何を考えているの?

 

avoir un chat dans la gorge   声がしゃがれる、のどが詰まる

「のどの中にネコがいる」とは、面白い表現ですね。実はもともとは、”avoir un maton dans la gorge”と言っていました。この “maton” というのは11世紀には「凝固した牛乳」のことだったのですが、そのうちに牛乳だけでなくあらゆる塊のことを指すようになりました。この “maton”が “matou (雄猫)という単語に似ていたせいか、「猫」という意味にもなります。このように “maton” =塊、ネコ となったことから、”avoir un maton dans la gorge” が “avoir un chat dans la gorge.” に変化したということです。

Pardon, je bois de l’eau. J’ai un chat dans la gorge.
失礼、水を飲みます。声がしゃがれてしまって。


今回は、比較的広い世代の人が、日常的に使う慣用表現を選んでご紹介しました。ウサギ、ネコ、マムシ、ウシ、鴨、などいろいろな動物が出てきて面白いですね。ぜひ覚えて使ってみてください。

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5件のコメント

  1. 必ず通らなければいけない各国語のIdiom集ですね。今回も大変勉強になりました。
    現在、フランス人の先生について発音を結構厳しく教えてもらっていますが、liaisonまたはenchaînementの法則でいつ、するべきかしなくても良いのかいまだに曖昧です。この点の説明を泉先生にお願いしたいです。

    • Bonjour !

      リエゾンの場所は確かに曖昧ですよね。とりあえずはこちらをお読みいただき、「絶対にしなければならないところ」「絶対にしてはならないところ」
      から始めてみてください。
      https://tresbien.co.jp/2020/07/20/liaison-2/

  2. どの言語にも特有の言い回しがあり、それがその民族の伝統や習慣を表していると思われるところが面白いですね。

  3. いずみ先生、こんにちは。
    mi-figue mi-raisin のところで
    que l’on ne sait のl’ は
    何を指しているのでしょうか?
    お時間がありましたら教えて下さい。

    • Bonjour, お返事遅くなり申し訳ありません。

      この l’ に意味はなく、consonne euphonique(音便の子音)と呼ばれています。
      qu’on でも que l’on でも正しいのですが、qu’on という音が “con 馬鹿、まぬけ” という単語を連想させるために、
      l’ という子音を挟むことが多いのです。

      consonne euphonique の l’ を挟む場合はこのほかにも:
      si l’on
      où l’on
      à qui l’on
      et l’on

      など、うしろに on という主語が来る場合に起こります。
      これは母音と母音がつながらないようにするためです。

      consonne euphonique(音便の子音)にはほかにも Alex a-t-il une voiture? などの倒置疑問文を作る際に入れる t があります。
      (これも母音がつながるのを防ぐためで、t に意味はありません)

      Merci et bonne journée 🙂

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