フランス留学の前に準備しておくこと

最終更新日:2020年4月3日

今日はフランス留学や駐在をするにあたって、事前に準備しておくことについて考えてみたいと思います。準備といっても、ビザや滞在先、持ち物という物質的な準備ではありません。フランス滞在を有意義なものにするにかかせない、事前の精神的な準備についてです。

幻想の国「フランス」

海外留学や海外での生活を夢見る方は多いと思いますが、私個人が思うに、単に「海外生活に憧れるから」や、「とにかく日本を離れたいから」という理由で海外に向かうと、現地で現実を知った時やカルチャーショックを受けた際に精神的に受けるダメージが大きく、危険だと思います。

世界にはさまざまな国がありますが、その中でもフランスという国は「外国人に幻想を抱かせる国ナンバーワン」にあげられます。フランスと言う国に、昔から日本人だけではなく世界中の人々が憧れを抱いてきました。なぜ人々はフランスに憧れるのでしょうか。それはフランスの誇る芸術、音楽、料理、映画、モード、建築物といったありとあらゆる文化がフランスの非常に良いイメージを作り上げているからでしょう。

この点では、今の日本も非常にフランスに近いと思います。海外から見た日本のイメージはとてもよく、その証拠に世界からの観光客の数もどんどん増えてきています。これは、日本文化(茶道、華道、柔道、剣道、禅、料理、アニメ、映画など)そして日本独特の四季と風景をひっくるめたすべてが、日本のイメージを非常にポジティブなものにしているからです。

 

フランスのイメージの話に戻りますが、なぜか「フランス本」は世界中でとても人気があります。1989年にイギリス人が書いた”A Year in Provence”は日本でも「南仏プロヴァンスの12か月」として多くの人に読まれたのを始め、「フランス人は10着しか服を持たない」のようなフランス式のArt de vivre(処世術、生き方)に関する本も非常にたくさん出版されてきました。

私が知っているだけでも、以下のようなタイトルがずらりと並びます:

  • French Children Don’t Throw Food (フランスの子供は食べ物を投げない)
  • French Parents Don’t Give In: 100 parenting tips from Paris (フランス人の親は屈しない:パリ発子育てのコツ100)
  • Bébé Day by Day: 100 Keys to French Parenting  (毎日の子育て:フランス式子育て100の鍵)
  • French Kids Eat Everything: (フランスの子供はなんでも食べる)
  • French Women Don’t Get Fat (フランス人女性は太らない)
  • Forever Chic: Frenchwomen’s Secrets for Timeless Beauty, Style, and Substance (フォーエバーシック:フランス女性のエイジレスビューティ、スタイル、本質の秘密)
  • Ageless Beauty the French Way: Secrets from Three Generations of French Beauty Editors (フランス式エイジレスビューティー:3世代フランス人ニューティーエディターの秘密)
  • The French Beauty Solution: Time-Tested Secrets to Look and Feel Beautiful Inside and Out (フランス式美の方法:年月を経て分かった、内側と外側から感じる美の秘密)
  • Dress Like a Parisian (パリジェンヌのように着こなす)

さらには、パリジェンヌ自身が書いた

  • How to be Parisian wherever you are (どこにいてパリジェンヌになる方法)

なんて本まであります。これらの題名を読むだけで、まるでフランス人(特にフランス人女性)は「いつもおしゃれだしシックだし、太らないし、子供のしつけも完璧だし、年をとっても美しい」というスーパーウーマンに思えてしまうでしょう。

しかしこのように、さまざまなところで触れるフランス文化に関する情報や、上記のようなフランス本が作り出すポジティブなフランスのイメージに過剰な憧れを抱き、「なんとなくフランスに住んでみたい」「フランスには理想世界があるのではないか」という思い込でフランスに住んでしまうのは、避けるべきだと思います。その理由は、それらがメディアから得て膨らんだイメージでしかなくすべてが現実ではないからです。

 

「パリ症候群」という本を書いた精神科医の太田博昭氏が、本の中で次のように書いています。

「…このように、フランスには何か「理想世界」があると思い込み、そのようなフランスに住みたくて来仏する日本人は大勢いる。これはある種の「幻想」に過ぎないのだが、なかには厳しい現実にぶつかっても決してそれを捨てようとせず、幻想の世界に生き続ける人がいる。この人たちの本当の渡航目的は、「日本を離れフランスで生活すること」の一語に尽きる。従って、モードの勉強もフランス語の勉強も、実は二義的な意味しかないのだ。このような非現実的な生き方にはどこかで無理が生じ、遅かれ早かれ精神的・心理的なトラブルに陥ることになる。ー「パリ症候群」太田博昭 著

 

フランスが放つイメージだけに憧れて留学をすると、遅かれ早かれ現実に直面して精神的に耐えられなくなる。それなのに「憧れのフランスに住んでいる自分」に満足し、日本に帰るに帰れない。このような状態では、有意義なフランス生活を送っているとは言えません。

ですから、まずフランスに留学する前に、「留学して何をしたいのか」「何を学びたいのか」をしっかりと考えておくことが重要になります。「学ぶ目的」がしっかりとしていれば、カルチャーショックを受けたり日常生活で少しぐらい嫌な思いをしても、そのような体験を自分の目的と切り離して受け止められると思います。

フランス留学に目的は必要?
フランス留学に目的は必要か?(2)

異文化に住むことは、自己のアイデンティティを危機にさらす行為

また、太田氏がおっしゃるように「異文化に住むということは、程度の差はあれ自己のアイデンティティを危機にさらす行為」になります。私がこれを感じたのは、最初にリヨンに語学留学をした時でした。そのころは20代前半で、能天気で平和な日本で育った私には自分のアイデンティティというものがまだ確立されていなかったように思います(日本にいた時は、しっかりとした自己を確立していると思い込んでいたにもかかわわらず、です)。

そんな頃にいきなりフランス社会に飛び込んだ私は、自分というものがよく分からなくなり、「フランス人にならなきゃ」と思ったのでした。今思うとバカみたいに小さなことですが、こんなことがありました。ある日、スーパーで買い物をしてレジに並んでいました。すると列が長かったので、前に並ぶフランス人達は皆重たいかごを床におろし、列が前に進むにつれてかごを足で押して(蹴って)前に進めたのです。

初めてこの光景を見た時、私は非常にカルチャーショックを受けたものでした。食品を入れたかごを足で蹴るという行為は私には考えられなかったのですが、周りの皆がいつもそうしているので、だんだんと「自分も真似しなければ」と思うようになったのでした。そうすることで「私はフランス人社会にとけこめたんだ!」と思ったのでした。

これが「アイデンティティの危機」と言えるのかどうか分かりませんが、自分の好きなもの・嫌いなもの、いいと思うこと・悪いと思うことがまだしっかりと自己の中で確立されていない頃に異文化に触れると、自己が果たして正しいのかどうかが分からなくなってしまうようです。そうして、最悪な場合には自分のアイデンティティを捨てて相手に合わせてしまうのでした。今だったら「フランス人って、行儀悪い~!」と思うだけでしょうが。

このようなことを避けるためには、自己のアイデンティティを確立しておくだけではなく、太田氏の言葉をお借りすれば「異文化と対決して跳ね返された時、持ちこたえることのできる精神的なパワー」が必要になります。しかしもちろん、「異文化と対立した時には真っ向から反対せよ」というのではなく、自分の中に強い芯を持ちながら、かつ異文化に柔軟に対応する力が必要です。

具体的には例えば、異文化に対する期待値の高さを柔軟に変えられることです。日本はよくも悪くも特殊な国ですから、日本社会での対応と同じ対応を期待して海外に行くと、がっかりする(または感動する)ことがあるでしょう。ですから期待値を柔軟に上げたり下げたりできるように心づもりしておけば、異文化の対応に一喜一憂して振り回されることもありません。私はいろいろな国で生活をする上で、この期待値を最初から下げておくことで、なにが起こっても動揺しないことを学んだと思います。

最低限自分のいいたいことは伝えられるだけのフランス語力

最後に、最低限自分のいいたいことは伝えられるだけのフランス語力は絶対に必要です。フランスは日本と同じように、英語が通じる国とは言えません。また「フランスに行けばフランス語は上達する」というのは幻想で、「フランスに行って努力すればフランス語は上達する」のが現実です。しかも大人の場合、基本的な文法事項は渡仏する前に日本語で学んだ方が早く習得でき、その後の上達度も早くなる場合が多いです(当たり前ですが、フランスでフランス語を学ぶ場合には「フランス語でフランス語を学ぶ」という直接教授法になります)。

以下に、フランス留学前に準備しておくことをまとめると、

  1. 「フランスに対する憧れ」だけで留学するのではなく、具体的な目的設定をしておく
  2. 異文化と対決して跳ね返された時、持ちこたえることのできる精神的なパワーを持っておく(自分のアイデンティティをしっかりと確立しておく)
  3. 自分のいいたいことは伝えられるだけの基礎フランス語力を身に付けておく

以上の3つを準備しておけば、充実したフランス留学が送れることでしょう。

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